先日、薬局に来られた高齢の男性から、夜間頻尿のご相談がありました。一晩で、3~4回おしっこに起きる。睡眠不足で辛い。泌尿器科にもかかったが、混んでいることもあって受診が続かなかった。何か、漢方薬でいいものはないか?という相談です。前立腺肥大からの夜間頻尿、日常でよく患者さんにお会いしますが、思っている以上にご本人はお辛い場合が多いようです。さて、今回はおしっこについて考えてみましょう。しもの話が連続してすみません(^^;
前立腺肥大症
前立腺は男性にしかない生殖器の一つで、直腸と恥骨の間にあり、膀胱の出口で尿道を取り囲んでいます。このため、前立腺が肥大すると尿道が圧迫されて、排尿に関わるいろいろな症状が出現します。一般的には、前立腺の大きさは、「クルミぐらい大きさ」と言われますが、前立腺が肥大すると卵やみかんの大さになります。肥大する原因は完全にはわかっていませんが、加齢や遺伝的要因、食生活、肥満、高血圧、高血糖、脂質異常などで悪化すると言われています。
前立腺肥大症の症状
おしっこが出にくくなったり、頻繁にトイレに行きたくなる(頻尿)、排尿してもすっきりしない(残尿感)、尿がしたくなると我慢できなくなる(尿意切迫感)、尿をもらしてしまう(尿漏れ)などです。
患者さんの多くに、「過活動膀胱」という尿意切迫感と頻尿を合わせた症状が起こります。膀胱に尿が蓄えられていないのに膀胱が過剰に反応して、頻繁にトイレに行くものの尿の量は少量、という状態です。肥大した前立腺が、膀胱を圧迫して刺激することから起こります。
また、尿を出し切ることができず、次の排尿までにすぐに尿が溜まってしまうことも多いです。前立腺が大きくなることで、尿道を圧迫し排尿を困難にすることが原因です。
薬物療法
- α1アドレナリン受容体遮断薬
交感神経が刺激されると、前立腺や尿道の筋肉が緊張し、尿道が狭くなります。交感神経のα1受容体を遮断して、交感神経の刺激を抑え、尿道をゆるめ、尿を出やすくします。1週間ほどで改善効果がみられます。ハルナール(タムスロシン)、ユリーフ(シロドシン)、フリバス(ナフトピジル)がこの仲間です。
- 5α還元酵素阻害薬
前立腺の肥大には、男性ホルモンの働きが影響すると考えられており、5α還元酵素は、男性ホルモンである「テストステロン」を、より強力な作用のある「ジヒドロテストステロン」に変える働きがあります。5α還元酵素の働きを阻害し、男性ホルモンの働きをおさえ、前立腺を小さくする効果があります。効果が見られるまでに数ヶ月かかります。アボルブ(デュタステリド)という薬で、この成分はAGA(男性型脱毛症)の治療薬としても用いられています。
- PDE5(ホスホジエステラーゼ5)阻害薬
前立腺肥大症の薬として最も新しい薬です。ホスホジエステラーゼ5は、前立腺や膀胱、尿道に多く存在して、血管や筋肉を収縮させる働きのある酵素です。この酵素の働きを阻害することにより、血管を拡げ、筋肉を緩めることで、排尿障害を改善します。ザルティア(タダラフィル)という薬で、この成分は勃起不全治療薬としても用いられています。
- 抗アンドロゲン薬
が作られるのを抑え、また、血中のテストステロンが前立腺細胞に取り込まれるのも抑えます。その結果男性ホルモンの働きが弱まり、肥大した前立腺が小さくなり、排尿障害が改善されます。症状の改善効果がみられるまでに時間がかかります。プロスタール(酢酸クロルマジノン)などがこの仲間です。
- 植物製剤
前立腺の炎症を抑える場合や、症状の緩和に使用されます。α1アドレナリン受容体遮断薬と一緒に使用されることが多いです。副作用が少なく、穏やかな薬です。エビプロスタットなどがあります。
中医学から見た前立腺肥大
中医学的には、前立腺肥大症は、腎が衰えた状態=「腎虚(じんきょ)」によって起こると考えられています。
「腎」は、生殖や成長・発育、ホルモンの分泌、免疫系などの機能を併せ持つ臓器と考えられていて、生命を維持するエネルギーの源「精」を蓄え、体内の水分をコントロール(排尿機能)するいわれています。
腎に蓄える精が不足して機能が衰えると、不妊症や精力の減退、更年期障害、骨粗鬆症、排尿トラブル、脱毛、健忘症、聴力の低下といったさまざまな不調や老化現象が現れます。また、腎が弱くなると他の臓器にも影響するため、身体の免疫力や回復力が低下します。これを「腎虚」といいます。
漢方薬は、前立腺肥大症の症状を改善する効果を期待して、西洋薬と併用されることが多いです。
よく使われる漢方薬
以前お話しした補腎薬がメインになります。
- 八味地黄丸(はちみじおうがん)ツムラ7
「腎陰」を補う「六味丸(ろくみがん)」ツムラ87に、腎陽を温補する桂枝、附子が加わった漢方薬です。体全体の新陳代謝を高めて、排尿機能を改善します。冷えが強い方にお勧めです。
- 牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)ツムラ107
八味地黄丸に利尿作用のある「車前子(しゃぜんし)」、活血作用があり、膝痛に効果のある「牛膝(ごしつ)」が加わった漢方薬です。活血作用によって前立腺を縮小させ、利水作用によって停留している尿を排出します。腰痛や膝痛、むくみがある方に良いです。
- 知柏地黄丸(ちばくじおうがん)
六味丸に、「知母(ちも)」と「黄柏(おうばく)」が加わった漢方薬です。清熱作用が強く、顔や手足がほてる傾向の方、熱感のある方に適しています。
- 清心蓮子飲(せいしんれんしいん)
何となく不安があって頻尿になるなど、神経性の膀胱炎に使われることが多い漢方薬です。腎陰の不足によって、心火が亢進した状態=「心腎不交(しんじんふこう)」を改善する薬ですが、六味丸系の薬に入っている「地黄(じおう)」によって胃もたれが起こるため、六味丸系が使えない方にも使用されるようです。
日常生活で気をつけること
・体、特に足腰を冷やさないようにする
・お酒、辛いものを控える
・寝る前に水分を大量に飲まないよう気を付ける
・長時間同じ姿勢を続けるのはやめましょう。
まとめ
前立腺肥大症は、女性にはあまり関心がないかもしれませんが、過活動膀胱は50~60代以降の女性にも多く、やはり腎と関係があるとされています。どちらも、命にかかわることはあまりないですが、日常生活にはかなりの不便があります。腎のケア、大事ですね。冬は、五行学説で考えると「腎」にあたります。寒くなるこれからの季節は特に補腎を心がけましょう。身体を冷やさないようにする、早めに寝ることを心がけることが大事です。黒いもの、例えば海藻類や黒ゴマは腎を補いますので積極的に摂りましょうね。寒い季節にしっかり腎をケアして、いつまでも若々しくいたいですね~(^^)/