相談⑦皮膚のかゆみ

知り合いから、皮膚のかゆみで相談を受けました。秋頃に蚊に刺された後、ぼこぼこと大きめの発疹ができて痒みが強い、なかなか治らないし、治ってもまた新たにできてしまう。ステロイドの外用薬を何種類か試したが、やめるとまた発疹がでる。抗アレルギー薬を飲んでもあまり効果がない。強めの飲み薬は眠気が気になって飲めない、ということでした。
お話を伺って、まず頭に思い付いたのが「痒疹(ようしん)」。なかなか治りにくくて、慢性化することも多い疾患で、西洋医学では対処療法しかないと思います。皮膚のかゆみは、それ自体が大きなストレスとなってイライラしたり、睡眠障害が起こることがあります。また一度掻きはじめると、さらにかゆみが増して、血が出るまで掻き続けるといった悪循環が生じ、皮膚にダメージを与えてしまいます。今回は、つらい痒みについて、中医学的対処を考えてみたいと思います。

皮膚の痒み

皮膚は、表皮と真皮、皮下組織という3つの層からできています。表皮の一番外側にあるのが角層で、水分を豊富に含んでいます。真皮には、表皮に栄養や酸素を運ぶ毛細血管が張り巡らされ、表皮と真皮には痛みやかゆみを感じる知覚神経が伸びています。
かゆみを引き起こす刺激は、食べ物や衣服、加齢や室温、湿度などがあります。肌をかくと刺激の一部が知覚神経に伝わり、かゆみ物質のヒスタミンなどを放出する細胞を刺激するため、かけばかくほどかゆみが増す現象が起こります。また角層の乾燥が起こると外部の刺激から皮膚を守るバリア機能が失われ、知覚神経が刺激を受けてかゆみが生じやすくなります。

西洋学的かゆみ治療

まずは外用ステロイド薬を使って炎症を抑え、抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬など、かゆみを止める内服薬を併用します。皮膚の乾燥を防ぐため、保湿剤(ヘパリン類似物質やセラミド、ヒアルロン酸など)のクリームやローションを塗布する場合も多いです。

中医学から見たかゆみ

中医学では、皮膚の状態を見極め、4つのタイプに分けて治療をします。

  • 風邪(ふうじゃ)タイプ

かゆみの多くは風邪が原因となって発生すると中医学では考えられています。風邪の影響で、気血の流れが妨げられたり、体内に起こった風邪(内風)により、皮膚の栄養不足を生じて皮膚症状が起こります。特徴は強い痒み、皮膚の乾燥、症状の変化が速いことなどです。

  • 熱邪(ねつじゃ)タイプ

夏の高温や、体内の熱が皮膚に鬱滞することで、皮膚症状が起こります。局部の熱感がある、皮膚が紅潮する、疼痛や化膿を伴うことがある、などが特徴です。

  • 湿邪(しつじゃ)タイプ

湿気の多いシーズンなど外界から入った湿邪、もしくは飲食の不摂生などにより体に余分な水分(内湿)がたまると、ジクジクとした皮膚疾患が起こります。じくじくしてただれる、下半身の症状が多い、痒みが強い、なかなか治らないなどが特徴です。長期化すると熱を持って「湿熱」の状態になります。

  • 燥邪(そうじゃ)タイプ

乾燥する季節や、体内の陰血(水分や血液)不足のため、皮膚が乾燥状態になり、潤いと栄養が欠乏します。皮膚が乾燥してざらざらする、強い痒みがある、などの特徴があります。

実際はこれらのタイプが重なっていることがほとんどなので、どの症状が強いかを判断して薬を使い分けることになります。

代表的な痒みに効く漢方薬

  • 黄連解毒湯(おうれんげどくとう)ツムラ15

清熱作用のある黄今、黄連、黄柏、山梔子が入っていて、「湿熱」型のかゆみに効果があります。尿路感染や細菌性の下痢の時にも使われます。体を冷やす作用が強いので、冷え性の人には向きません。イライラからくる不眠や、甘いものがやめられない人に、食欲低下の目的で使われることもあります。かなり苦い漢方薬なので、苦いのが苦手な人は、オブラートに包んで服用するといいです。長期に使用すると乾燥傾向が表れる場合があるので、この場合は「温清飲(うんせいいん)」ツムラ57に変更します

  • 消風散(しょうふうさん)ツムラ22

風邪からくる皮膚疾患に用いる処方ですが、湿邪にも効果があります。蕁麻疹など、出たり消えたりする症状や、分泌物が多い湿疹でかゆみが強いもの、からだのほてりがあるものによく効きます。特に上半身に症状が出ていて、病程が2~3週間ほどの慢性化していないもの、湿疹以外の皮膚は正常な場合に使用すると効果があります。構成生薬の、牛蒡子、防風2、荊芥、蝉退は風邪を取り除く作用があります。蝉退(ぜんたい)とは蝉の抜け殻のことで、かゆみ止めや解熱作用もあります。長期に使用する薬ではないので、痒みが治まったらやめましょう。

  • 当帰飲子(とうきいんし)ツムラ86

構成生薬の当帰、地黄、芍薬、川弓は、血を補う作用のある「四物湯(しもつとう)」ツムラ71と呼ばれる漢方薬で、皮膚に栄養を運び、潤いをあたえます。その他、気を補う作用やかゆみを抑える作用のある生薬が入っています。皮膚がカサカサしてかゆみを伴う湿疹によいです。温補、潤湿作用があるので、皮膚の赤みが強い時やジュクジュクしている症状には向きません。乾燥して痒みが強い時は「消風散」と合わせるといいです。老人の皮膚掻痒症には、「六味丸(ろくみがん)」ツムラ87を合わせて使用します。

まとめ

最初にお話しした知り合いの方には、湿疹が赤く腫れが強いこと、掻き壊してじくじくしている部位があること、また普段から暑がりで、イライラすることも多い、時々膀胱炎を起こすことなどから、黄連解毒湯を服用するようアドバイスしました。うまく効果が出てくれますように☺
私も痒みがよく出るほうでしたが、四物湯を含む漢方薬を長期に飲んでいるのがよいのか、最近は肌のかゆみに悩まされることがずいぶん減りました。ただ、年齢とともに肌の水分量は減るので、特に乾燥の季節にはしっかり保湿を心がけたいと思いました。たかが痒み、されど痒み…皆様も痒みを放置せず、ステロイドのお世話になることはできるだけ短期間で済むよう、漢方薬を上手に使ってみてくださいね~(^^)/

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA