先日、耳鳴りが続いている患者様から相談を受けました。耳鳴りに良いと、八味地黄丸を長期で飲んでいるが改善しないもうあきらめたほうがいいのか、とあきらめ顔で話されていました。耳鳴りは、私も経験ありますが、続くととてもつらいですね。今回は耳鳴りについて中医学的に考えてみたいと思います。
耳鳴り
音は、外耳道(耳の穴)→鼓膜→中耳→内耳→聴神経と伝わり、最終的に、大脳の聴覚中枢で、音として感じ取られます。耳鳴りは、一般には内耳の障害をから起こることが多いとされています。空気の振動である音が内耳の蝸牛に伝わると、神経を伝わる電気信号に変換されます。内耳の障害で、本来の外部からの振動の刺激とは関係のない異常な信号が、耳鳴りの元と考えられていますが、実は、耳鳴りの発生の原因メカニズムについて詳細はわかっていません。特に検査で異常が発見されず自覚的症状がある場合は、ビタミン剤や循環改善薬、精神安定剤などが対処療法として使われることが多いです。
中医学的耳鳴とは
中医学的に耳は、腎とかかわりが深いとされています。そして他の五臓である「心・肝・脾・肺」とも密接な関係があります。耳鳴りは、「耳聾(じろう)」=聴力の減退につながることがあり,注意が必要です。
耳鳴りのタイプ
- 風熱侵入(風邪による耳鳴り)
風邪、特に熱邪によって引き起こされます。風邪の邪気が口・鼻から肺に侵入して、上部の竅を塞ぎます。肺とのかかわりが深い耳鳴りです。
ツムラにはないですが、赤い風邪で使われる「銀翹散(ぎんぎょうさん)」が効果があります。
- 肝火上炎(ストレスによる耳鳴り)
肝が憂鬱や怒りなどによって傷つけられると、肝火となり上に昇ってきて耳を犯します。最初は、キーンと高い音がする耳鳴りが起こり、その後だんだん聞こえなくなることもあります。怒ると症状が悪化します。
ストレスからくる突発性難聴に、ツムラ76「竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんう)」がよく使われます。ストレス対策にツムラ24「加味逍遙散(かみしょうようさん)」、ツムラ34「四逆散(しぎゃくさん)」+ツムラ70「香蘇散(こうそさん)」などがよいとされています。
- 痰火上昇(暴飲暴食よる耳鳴り)
お酒や美食などの暴飲暴食により生じた痰湿が、徐々に熱を持ち痰火を発生させます。これが上昇して耳の機能を乱し症状があらわれます。舌に厚い苔がべったりとついているのが目安です。
ツムラ91「竹筎温胆湯(ちくじょうんたんとう)」、ツムラ37「半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)」がおすすめです。
- 腎精不足(老化による耳鳴り)
加齢や病気、虚弱体質、性生活の不摂生などにより腎精が消耗されると、耳の栄養が不足し耳鳴りが発生します。低い音の耳鳴りが起こり、だんだんと聴力が衰えていく場合が多いです。夜間に起こりやすく、長期化します。腎陰が不足しやすい更年期には、心火を抑えることができず、耳鳴りにつながることもあります。
腎陰を補うツムラ87「六味丸(ろくみがん)」、冷えが強い時はツムラ7「八味地黄丸(はちみじおうがん)」がよいですが、漢方薬局では、六味丸に五味子と耳鳴り治療の専門薬「磁石」の入った「耳鳴丸(じめいがん)」をお勧めです。
- 脾胃虚弱( 消化機能が弱いことによる耳鳴り)
脾の機能が低下すると、気血を生み出すことやそれを上にめぐらす働きが弱り、栄養がいきわたらない原因となり、耳鳴りが起こります。疲労すると悪化します。
気を補い、陽気を持ち上げる働きのある、ツムラ41「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」がよいです。
耳鳴りの食生活養生
ストレスからの耳鳴りにお悩みの方は、まずリラックスすること。そして適度にストレスを発散するようにしましょう。薄荷や菊花、セロリなどが肝の熱を冷ましてくれます。
暴飲暴食の方は、食生活の見直しをしましょう。偏りすぎず、バランスよく食材を取り入れることが大切です。はと麦茶、ウーロン茶は体の中の余計な湿を取り除くのでお勧めです。
加齢による耳鳴りの方は、「腎」を補うことを心がけましょう。色が黒い食材、黒キクラゲや黒ゴマ、黒豆、海藻類がおすすめです。
脾胃が弱い方は、刺激の強いもの(たばこ、酒、コーヒー、コショウ、わさび、からしなどの香辛料)は控え、消化のよい胃腸に優しいものを食べましょう。
その他、全般的な生活養生は次の通りです。
・質のいい睡眠をとり、早寝を心がける
・ストレスをためないようにして、適度な運動をする
・消化のいい食事をとるようにして、脾胃に負担をかけない
まとめ
今回の患者さんは、年齢68歳。体格良く、冷えは感じないということで、腎の衰えはあるが、陽虚ではないかなという気がします。高い音が鳴っているということや、普段からいろいろと不満を訴えられることが多いことから、ストレス性の耳鳴りという部分も大きいかなと思いました。今飲んでおられる防風通聖散に、四逆散を加えてみるのを提案したいと思います。
耳のトラブルは単に耳の問題だけでなく、心身の不調を知らせるサインでもあります。私もストレスがかかるとキーンという耳鳴りが聞こえるので、その時は、柑橘系をすぐに食べるようにしています^^;
耳鳴りを改善するためには、まず症状から何が大きな原因かを考えることが大切ですね。根本となっている心身の不調を取り除き、耳の働きを健やかに保つよう心がけましょうね~(^^)/