先日、同僚から「抑肝散(よくかんさん)と抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)は何が違うんですか?」と質問がありました。「抑肝散」を服用中の高齢の患者さんが、粉薬は飲みにくいとのことで錠剤を探しているが、「抑肝散」にはなく、「抑肝散加陳皮半夏」にはあるので、代わりにそれを飲んでもいいか、という内容でした。
今回は、高齢者によく使われる「抑肝散」、そして陳皮や半夏について焦点をあててみましょう(^^♪
抑肝散(よくかんさん)
「抑肝散」ツムラ54は、ホットフラッシュのところにも出てきましたが、イライラ・不眠に効く漢方として高齢の患者さんによく使われてます。字の通り、五臓の中の「肝(かん)」を抑える薬です。
「肝」には、神経や感情をコントロールする役割があり、肝を抑え、イライラする状態や神経が高ぶって興奮している状態を落ち着かせてくれます。認知症の薬であるアリセプトやメマリーの副作用で興奮が出やすいため、その副作用軽減を期待して併用されることも多いです。また筋肉の緊張状態もほぐすので、リラックスして不眠も改善します。副作用は非常に少なく安全な薬です。
抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)
「抑肝散加陳皮半夏」ツムラ83は、これも字の通り、「抑肝散」に「陳皮(ちんぴ)」と「半夏(はんげ)」を加えたものです。
陳皮は、みかんの皮を乾燥させたもので、気の巡りを良くして、湿痰からくる膨満感を抑えます。また、半夏は、カラスビシャクの球茎の皮を剥いて乾燥させたもので、強い燥性があり、湿痰を除去して嘔吐を止める作用があります。
抑肝散には、当帰、川芎、釣藤鈎など「肝」に対する薬と、白朮、茯苓など「脾」を助ける薬が含まれていますが、陳皮と半夏が含まれることによって、より脾胃(消化機能)に対して効果が期待できます。脾胃の弱い患者さんや、小児の患者さんには抑肝散加陳皮半夏を処方されることが多いです。実際、赤ちゃんの夜泣きに対して使われることも多いです。抑肝散と比べると即効性に関しては弱いようです。
さて、同僚の質問に対する答えですが、「抑肝散」と「抑肝散加陳皮半夏」ともによく使われていて、副作用が起こりにくいです。やや即効性に欠けるという点はありますが、飲みやすいのであれば「抑肝散加陳皮半夏」に変更して服用していただいて問題ないとお伝えしました。
半夏(はんげ)と陳皮(ちんぴ)
半夏と陳皮はいろいろな漢方薬に入っています。そのお仲間さんたちをご紹介しますね~
半夏は、先ほども言ったように、嘔吐を抑えるので、吐き気に効果のある漢方薬によく配合されています。強いえぐ味のある成分が含まれていて、生で直接食べると、口や喉の粘膜が痛くなります。
しかし、このえぐ味は生姜のしぼり汁と服用することで軽減し、さらに、煎じることによって不快な味もほぼ消失します。また、生姜そのものにも吐き気を抑える効果がありますので、毒性軽減の目的と、相乗効果を期待して、半夏を使う方剤のほとんどに、生姜が一緒に配合されています。
半夏と生姜の二つで「小半夏湯」といい、これに茯苓を足すと、「小半夏加茯苓湯(しょうはんげかぶくりょうとう)」ツムラ21になります。つわりや乗り物酔いの吐き気に効果があります。
「小半夏加茯苓湯」に陳皮・甘草を加えると「二陳湯」ツムラ81になります。やっと陳皮が出てきました~(^^♪
胃に不快感があったり、嘔吐、二日酔い、食欲不振などの症状がある場合に よく用いられる処方です。体内にたまっている余計な水分を排出するので、メニエール病によるめまいや頭痛にも有効とされています。
「二陳湯」に、人参・白朮・大棗を加えていくと私の大好きな「六君子湯(りっくんしとう)」ツムラ43になります。
脾胃の気を補い、消化機能を高める働きのある「四君子湯(しくんしとう)」ツムラ75に半夏、陳皮が配合されたもの、という考え方もできます。半夏、陳皮はともに湿、水の滞りを改善する作用があるため、 六君子湯は四君子湯よりも脾の湿を取り除く作用が強いです。
食欲がわかない、吐き気がするといった症状の他、胃がもたれる(消化不良)、胃が痛い(胃痛)、胸やけがするなど胃腸が弱っている方に処方されます。冷え症気味で比較的体力が低下している方におすすめの漢方薬です。
ちなみに、「小半夏加茯苓湯」に気を巡らせる生薬の「厚朴」「蘇葉」を加えると「半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)」ツムラ16という、のどのつかえ(梅核気)など異物感や嘔吐、ヒステリーやうつ病などの神経症状によく用いられる漢方薬になります。
ここからさらに発展させていくこともできるかもしれませんが、きりがないので、今日はここまで^^;いずれも、胃部の水滞を改善して、それにより悪心・嘔吐の軽減に効果がある漢方薬といえますね。
まとめ
漢方薬はたくさん種類があって覚えにくい、わかりにくいといったことをよく言われるのですが、基本を知っておくとその応用、みたいな感じで、親戚を抑えておくと、私のような老化した脳みそにも入りやすいですよ~♪自分の勉強にもなりますので、漢方薬の親戚シリーズ、今後もお伝えしていきますね~(^^)/